フォームが良ければ怪我をしないというわけではない
よく勘違いされがちなのですが、残念ながら「良いフォームだから怪我をしない!」という事はありません。
ボールを投げるという動作では、良い投げ方でも必ずストレスのかかる場所があります。
それは、肩の後面にある棘下筋、小円筋や広背筋という筋肉です。
これらの筋肉はボールを投げる際に加速されたエネルギーを一気に減速し腕が肩から抜けないようにブレーキをかけます。一説によると体重の0・8から1・5倍の重力がかかると言われています。
ブレーキをかけるストレスによって肩の後方の筋肉、関節包が縮まり硬くなります。
この部分が硬くなることで痛みにつながることが多くあります。
肩の後方の筋肉が張っている状態や、後方関節包の拘縮がある状態では、肩関節の内旋可動域がせばまり、肩関節の機能低下が起こります。
この内旋可動域低下の状態で投球を続けていると、投球動作で肩を上げていく初期段階で内旋可動域低下を補うため代償動作が起こり、肩関節上方のインピンジメント(擦れ)が発生しやすくなります。
投球動作の初期段階(コッキング期)が破綻する事で、リリース時、フォロースルー時までのフォームに大きな負担をかけることになります。
その他、オーバーユース、疲労蓄積、メンテナンス不足により肩甲骨周囲の筋肉が硬くなり、肩甲胸郭関節の動きが悪くなることでも痛みの原因になります。
このように内旋可動域の低下、肩甲骨周囲筋拘縮は、その他に様々な障害を引き起こします。
肩や肘が痛い場合でも、その原因は肩だけでなく、下半身の柔軟性がとても大きくかかわっています。
練習量の増大や登板過多などで疲労状態の時には、上・下半身の柔軟性が低下します。
上半身の柔軟性が低下すると、肘がスムーズに上がりにくくなります。
下半身の柔軟性が低下していると、投球時の体の開きが早くなります。
これらが重なると、良く言われる「肘が下がる」という状態になります。
悪い投球フォームで投げていると、最もエネルギーを必要とする最大外旋時(弓のように肩・肘がしなったとき)のストレスが増大します。
この時、肘の内側の靭帯にストレスがかかり、最悪の場合は断裂する事があります。
これが、ニュースでよく耳にする肘の靭帯断裂とか部分断裂と呼ばれるものです。
これを避けるためには、肘が下がらないように肩関節の柔軟性、肩甲骨周囲の機能、インナーマッスルの安定性、下半身の柔軟性が必要となってきます。
日頃のケアの重要性
前述した筋肉を毎日ストレッチでほぐし、特に肩関節内旋可動域の柔軟性を向上、維持する事が野球選手には大変重要です。
肩甲骨周囲の筋肉をよく動かして柔軟性を維持しましょう。
元広島カープの前田健太投手の「マエケン体操」などが良い例です。
プロ野球選手の投手の場合、痛みがあるなしに関わらず、必ずと言っていいほどトレーナーによって肩関節のチェックやケアを受けています。
セルフケアでは肩甲骨周囲をほぐすために日々ストレッチポールを使っています。
そして、必ずアイシングをしましょう。
プロ野球選手が氷嚢を肩肘に着けているのを見たことがあるでしょうか。
投手は登板後に15分から20分程度必ず行なっています。
投球時には、微細な筋損傷が起こっていますので、その炎症の熱をとるために必要なことです。
これを毎回行うことが、日々のケアの積み重ねとなり、大きな怪我を防ぐことになります。
当院の野球肩・野球肘に対する施術
まずは痛む時の動きと場所を確認し、肩関節と肘関節の柔軟性をチェックします。
チェックをもとに、固さの原因となっている筋肉をほぐしストレッチを行ないます。
痛みを取るために鍼治療もおこないます(苦手な方は行ないません)。
鍼治療は筋肉をほぐす効果と炎症を抑える効果があります。
併せてインディバアクティブも効果のある医療機器です。
楽天イーグルスのトレーナー時代にはこの機械を選手に使用していました。
施術もそうですが、日々のセルフケアがとても大事ですので自宅でのケアメニューをお伝えいたします。
症状がひどい場合には投球制限(ノースロー調整)をお伝えする場合がございます。
施術を受け改善してきたとしても、痛くなければよいというものではありません。
毎日過酷な練習をしているのですからプロ野球選手と同じように定期的にチェックを受け、体のケアを受ける事で大きな痛みになることを防ぐことができます。
特に調子よく腕が振れている時にこそケアが必要です。